Illumination

主人公の幸せが一秒でも続くように

映画やドラマの感想をメモ程度に書いていきます。ネタバレご注意ください。一番下にカテゴリ欄ございます。

【映画】ニューシネマパラダイス【感想】※ネタバレ注意

【映画】ニューシネマパラダイス【感想】※ネタバレ注意

───何をするにしても自分のすることを愛せ。子供の頃、映写室を愛したように。──

ニュー・シネマ・パラダイス」は、1988年公開のイタリア映画で、シチリア島の村に住むサルヴァトーレ・ディ・ヴィータ(愛称トト)の少年期~中年を迎えるまでの物語です。私が観たのは完全版で3時間ほどありました。

少年期のトトと年の離れたアルフレードが楽しそうに過ごしていく様子を見ると友達になるのに年齢って関係ないんだなあって思います。やんちゃなトトに振り回されるアルフレードもそれはそれで楽しそう。アルフレードとトトの年の差って何歳くらいなんでしょうか?トトが小学五年生のときには40歳だとして(それくらい見えるので)30歳差くらいですかね(想像)

アルフレードは映画好きのトトがミルク代として渡されたお金を映画代に使ってしまい母親から怒られているところを「映画はタダで入れてやったんだよ」と助けてくれたり映画館に入れない村民のために広場の壁に映写機の映像を反射させて上映してくれたり、粋なことをしてくれる楽しいおじさんという感じ。不運なことにこのとき上映していたフィルムが発火し映画館は火事になりましたが逃げ惑う村民の中でトト一人だけがアルフレードを救出します。小さな身体で大きな体格のアルフレードを引っ張る懸命な姿にああ、このままどうなるんだろう、とハラハラしてみてました。あんな大火事の中2人が助かったのも奇跡ですよね。村民はアルフレードよりも娯楽である映画館の心配ばかりでなんだか冷たいなと思いました。ただそれだけ映画が村民にとっては重要な娯楽だったんだと思います。この事件をきっかけにアルフレードとトトの絆はより深まっていったように思えます。

高校生になったトトはエレナという女性に恋をします。それを知ったアルフレードは「女王様に恋をした兵士の話」をトトに話します。それは身分違いの恋でしたが女王様は「100日間バルコニーの下で待ち続けてくれたらあなたのものになります」と兵士に言いました。バルコニーの下で、と聞くとついロミオとジュリエットの有名なシーンが思い浮かびました(あの二人は既に心で結ばれていたので状況としては全く違いますが)兵士は雨の日も雪の日もバルコニーの下で待ち続けます。ついにはやせ細り体力も尽きようとしていた99日目、兵士は途端に姿を消してしまうのです。「あと一日なのに、どうして?」とトトはアルフレードに投げかけます。(わたしも心の中でどうして?と思いました)それは無事100日目を迎えたとき「本当に女王様が自分を受け入れてくれるのか、約束を破って裏切られたりしないだろうか」という不安と「99日で止めてしまえばその間女王様が自分を待ってくれていたと信じられる」という希望からでした。ここまで頑張ったのだから、結果がどうであれ100日まで待てばよかったのに、と思いましたが兵士の心は女王様に裏切られたことを想像するだけで耐えられなかったのでしょう。なんて繊細なんでしょうね。兵士とトトの違いは、トトは何日も待ち続けた末、エレナの心を掴んだことです。あの兵士も、もしかすると100日目にはトトのような幸せがあったかもしれません。100日目がだめでも101日目に期待するくらいの気持ちでいればそれ以上の未来だって見えるかもれませんし、不幸な未来を勝手に想像し結局大切なものを逃してしまうのはもったいないなと思いました。

心を通わせた2人は暫く幸せそうに時を過ごしますがある日エレナの引っ越しきっけけに離れ離れになり、連絡先も分からないまま2人は別れてしまいます。のちにアルフレードはトトに「この村から出ていけ。二度と戻ってくるな、手紙も書くな」ときつく言い放ちます。二人の住む村は小さく閉鎖的で、トトの映画監督としての才能を見抜いていたアルフレードはこのままだとトトの才能や人生までも埋もれてしまう、と思ったのでしょう。「もう二度と会いたくない、お前の噂だけを聞いていたい」とトトに告げてさよならをしてしまいます。可愛い子には旅をさせよということわざに近いものを感じましたが、トトを世に放ったあとも誰よりトトの人生を気にかけていたのもアルフレードです。映画監督になったトトの作品を必ずチェックしトトの載った新聞を何度も奥さんに読み聞かせてもらったり、別れ際の言葉通り「噂だけを」聞きながらトトの成長を楽しみにしていたようでした。戦争中でいろんなことが制限されていた自分に代わりトトには外の世界で存分に自由を味わってほしいという気持ちがどことなく伝わります。

親の心子知らず、のようにそんなアルフレードの気持ちにトトが気付くのはそれから30年も経ったあと、アルフレードが亡くなってからの話です。母親からの電話でアルフレードの死を知ったトトは30年振りに帰郷します。もう帰らないと決めていた土地にはトトがこの場を離れたときと何ら変わらない風景、人々の姿がありました。変わってしまったものと言えばトトとアルフレードの思い出が詰まった映画館「ニュー・シネマ・パラダイス」が閉館になっていたことです。当時は人が溢れんばかりにごった返していた場所もテレビの普及で過疎になってしまいついに取り壊しされてしまいます。一つの時代が幕を閉じたような音をあの爆破音に感じました。

帰郷した際、エレナそっくりの女性(エレナの娘)を見かけたことをきっかけに離れ離れになっていたエレナを発見したトトはエレナに電話をかけ「会いたい」と約束を取り付けます。待ち合わせた薄暗い車の中、すっかりおばさんになってしまったエレナの顔をはっきりと見たトトは「相変わらず綺麗だ」とエレナを見つめます。トトの中では別れたときとなんら変わらないエレナの顔があったのです。二人が別れてしまった当時、映画館へ立ち寄ったエレナにアルフレードが「トトは君と結ばれるべきじゃない」とおせっかいおじさんを発揮していたことを知ったトトは大好きだったアルフレードに裏切られた気持ちで怒りをあらわにしますが「アルフレードの言葉がなければあなたは映画監督として成功することはなかった」とエレナは諭します。映画監督として成功したことは事実でも最愛の人と結ばれなかった悲しみは、どう処理すればいいのでしょう。エレナを想い続けていたトトはあれからもずっと孤独に生きていました。一方エレナは別の男性と添い遂げ子供もいます。(その男性(=ボッチャ)はトトの同級生です。冒頭からみれば分かりますがなかなか癖の強い子ですよ…)再会はしたけれどあの頃の二人に戻るには遅すぎました。映画のフィルムのように時間が巻き戻ることはありません。一夜だけの夢だと思って二人は身体を重ねます。

折角再会は果たせてもエレナとは二度と結ばれることのないと悟ったトトでしたがアルフレードの奥さんから一本の映画フィルムを渡されます。アルフレードがトトに残したものです。(厳密にいうと、預かっていたものです)それは当時キスシーンやポルノ映像が厳しく制限されてい頃に切り取られたシーンを繋ぎ合わせたフィルムでした。それを一人映画館で鑑賞するトト。小さい頃にカーテンから盗み見たいけないシーンを今は堂々と見続ける中で思わず零れる笑み。ただ懐かしいと感じただけなのか、フィルムに込められた意味をトトなりに感じ取ったのか。後者だとすればこのフィルムを繋ぎ合わせながらアルフレードは何を考えていたのでしょう。例えば「映画の規制なんかクソ喰らえだ」「省かれたキスシーンの分だけトトには映画を作って欲しい」「娯楽はもっと自由でいいんだ」なんて時々は愚痴を混じえながら作っていたのかもしれません。トトには「二度と帰ってくるな」とまで言っていたアルフレードですから、フィルムを通してトトにメッセージを送るというよりは映画に対する自分の思いを込めていたような気がします。

この映画を見て号泣、とまでいかなかったんですが単純に年の離れた二人の友情が微笑ましく羨ましくも感じた作品でした。不毛な恋には終わりがありまた映画にも必ず終わりがありますが、トトとアルフレードの友情はいつまでも変わらずそこにあるんだろうなと思いました。